Pioneer DV-600AV (3) 蛇足の義足を再設計

アナログ出力段の出口に独立電源付き強化バッファを追加するのではなく、オリジナルのアナログ出力段そのものを独立電源付き強化バッファでリプレースして、SUPER EIDOSを作るのである、という企画。


Pioneer DV-600AV (2)に乗せた強化バッファの回路図、無反省にコモンのレベルをVccの2分の1、オリジナルのOPアンプを使ったバッファを同じにしてしまっていた。そのために、初段エミッタ接地のエミッタ抵抗に交流バイパスの電解Cは入るし、許容入力レベルも制限されるし、よくない。蛇足の義足とは言え、まじめに考えることにした。


初段エミッタ接地の概念図。

入力信号は緑色の矢印のようにベース電位の振れとなり、出力信号は赤色の矢印のようにコレクタ電位の振れとなる。各電位の制約条件(たとえばどの電位も電源電圧Vccとグランド0Vの間になければならない、とか)を満たし、許容される振れ幅が最大になるようなベースとコレクタの電位を計算するのが目的。


トランジスタの特性に起因する制約条件には、コレクタエミッタ間飽和電位(Vcesat)、と、ベースエミッタ電位(Vbe)、がある。

コレクタとエミッタ間の電位差はVce(sat)以上でなければトランジスタは動作しない、ベースとエミッタ間の電位差はトランジスタが正常動作している場合は常に約0.6V。この2つが制約条件。


Vce(sat)の値はトランジスタのデータシートには必ず記載されている(下の例参照)。


値はだいたい0.1Vとか0.5Vとか、たまに2Vとかだけど、測定条件を見てみると、飽和状態、つまりベース電流流れすぎのスイッチング動作の領域でのVce(sat)が記述されていることが多い。アンプの場合、それでは音が歪んでしまうので、詳細なデータシートに記載されているVce-Ic曲線の図が参考になる(下の例参照)。


いずれVce(sat)は、トランジスタの品種の違いでとても大きく異なる種類のもではなく、コレクタに数mA流すような場合に1V程度見ておけば十分なのだと思う。ただしたまに2SC1775のように、上の図からわかるように数V見ておかないとリニアに動作しなさそうなトランジスタもあるので、注意が必要のように思う。2SC1775、なんでこんななのだろう。データシートの見方、どこか間違ってるのかな。


Vbeは、おおざっぱな計算では常に0.6Vと考えられるので、コレクタとベース間の電位に対する制約条件は、コレクタはベースよりもVce(sat)-0.6V以上高いこと、となる。この条件が問題になるのは、入力信号(ベース)が+側に振れ、それに応じて出力信号(コレクタ)がマイナス側に振れた場合↓

コレクタの振れ幅が「2x」となっているのは、このバッファアンプの初段エミッタ接地の電圧ゲインを約2倍に設定することを考えているため。
この制約条件は、よりおおざっぱには、コレクタはベースよりも電位が高くなければならない、と、感覚的には割と当たり前の話になる。


逆に振れた場合はこうなる↓

出力信号(コレクタ)は電源電位、Vccまで振れられるけど、入力信号は、グランド+Vbeまで。


入力が+に振れた場合と−に振れた場合の制約条件から、Vinmaxを求めてみる。

許容入力は、Vp-pでは4Vとなる。DV-600AVのDAC、PCM1742の最大出力レベルは、3.1Vp-pあたりだったからこれでOK。


図にまとめるとこう↓

電源電圧が13Vの場合、ベース電位を2.6V、コレクタ電位を9Vとすると、許容入力電圧が最も大きくなる。


ベースバイアス部を含めて、上の電位を与える抵抗の組み合わせを考えてみる。

増幅率は、18k/10kで1.8倍。エミッタに、交流バイパスCを入れないでもつじつまが合うようになった。というか、Vbe分を無視すれば、許容入力電圧最大を目指して動作点を設定すれば、こうなってあたり前だったんだ。抵抗器は、E6系列だけというわけにはいかず、18kというのが登場してしまった、涙。E6以外に、560、820、1.8k、2k、5.6k、8.2k、18k、20k、くらいは常備しておいた方がいいのかも。


強化バッファの回路図の定数を書きなおした。

今回は、小さくて薄いDV-600AVの匡体内に、小さく薄く作って押し込まなければいけないので、トランジスタは小さなメタルカンのBC109を使うことにした。これはVce(sat)もとても小さい。この図では、入出力のカップリングCが入っているけれど、基板を小さくするために、ここはカップリングCはDV-600AVのもともとの基板上に載せて、その足から線を引いてくるのがいいかもしれない。


強化バッファ用の電源は、本体電源流用はやめて初めからちゃんと作ろう。こんな感じ。

CDP-XA5ESのDAC用5V定電圧電源とほぼ一緒だけど、もともとの電圧に余裕があるので、ツェナーの駆動を抵抗1本から定電流回路に変更してある。


電源回路はすでに工作済み。

右端に見えるTO220は、2素子入りの整流用FRD。CDP-XA5ESから外したやつ。2素子をパラで使って半波整流します。ヒートシンクについているのがパワートランジスタの2SD613だけど、本当はこんなに大きなヒートシンクは不要。この基板とトランスとは、別匡体に入れる予定。


SUPER EIDOS計画、順調な滑り出し。