トランジスタの動作の話

トランジスタの原理、正確には2つのPN接合を持つバイポーラ型のトランジスタの原理は、半導体表面の検査中に偶然発見されたらしい。半導体表面に2本のプローブを当ててなにやら検査をしていた際の話で、ベースという極の名前はそのときの検査対象、土台になっていた部分に由来するらしい。


最初のトランジスタのレプリカ(画像はGFLDから)。


商品化されたトランジスタの中身(画像はGFLDから)。

これと同じような写真を撮ろう、と、2SC984をばらしかけているのだけどまだ写真は撮れず。中に、熱伝導のためのシリコンが充填されていて、内部を破壊せずにシリコンを除去する方法を工夫中。


バイポーラトランジスタは、電流増幅素子、つまり入力電流量によって出力電流量を制御する素子、とされている。しかし実際の動作機序は、NPNトランジスタのベースに入力が入る場合を考えると、PN接合によってベースエミッタ間に自動的に発生する逆電位(約0.6V)がベースエミッタ間にかけられる電圧によってキャンセルされ、接合部分の空乏層が消失し、ベースエミッタ間電圧のさらなる微細な増加に応じて指数関数的にエミッタからベースに熱拡散する少数キャリア(この場合は電子)が増え、そのほとんどがコレクタ側まで拡散して行くことで出力電流が流れる、という電圧によって電流が制御される素子である(と思う)。コレクタ電流が拡散電流であることが、バイポーラトランジスタが熱暴走する原因である。


エミッタからベースに拡散していく少数キャリアの内、ベース内で補足される分(ベース電流)とコレクタまで拡散していく分(コレクタ電流)との比が他の条件の影響を受けにくく、またベースエミッタ間電位の変動がシステムの設計時には無視できるほど小さいため、ベース電流によってコレクタ電流が制御される、というように考えるとシステムの設計は考えやすい。別の言い方で言えば、出力電流は入力電圧に対して指数関数的に変化する、出力電流は入力電流に対してリニアに変化する、入力電圧はとても小さい、という具合で、電流で考えた方が動作を把握しやすい。バイポーラトランジスタは電流増幅素子、という話は、トランジスタを使った回路を考える立場からの話としてはいい考え方だと思う。
ベース内で補足される分とコレクタまで拡散していく分との比、は、電流増幅率βであり、素子の仕様項目としてはhFEである。温度やコレクタ電流、周波数への依存性があり、システム設計時にはこれらの依存性への考慮が必要であるが、おおざっぱな検討時には、素子の種類によらずに100、としたりできる程度に安定している。アーリー効果として知られるベースコレクタ間電位差への依存性もあるが、これなんかは普通、オーディオ回路の設計時には無視だろうと思う。


この電流増幅率、をとっかかりにすると、トランジスタを使った回路の設計は考えやすい。でもトランジスタの動作原理を考える際に、電流を増幅するから、という頭で考えると訳がわからなくなるはずだと思う。上の写真を拾ったGFLDで、こんな↓トランジスタの動作の解説図も見つけた。これはシステム中のトランジスタの動作イメージとしてはいいかも知れないけれど、動作原理の説明としては失格だと思う。


ごく普通に回路を考える際には、トランジスタは電流増幅、で十分のような気もするのだけど、複雑なことを考えようとするとそれだけでは考えが先に進まないように思う。一番簡単な、固定バイアスのエミッタ接地回路↓から始めて、いろいろ考えてみたいと思っている。

通常は、(10.6V-0.6V)/100kΩ、で0.1mAがバイアス電流として流れる、以上、おしまい、と解説される。
電圧動作であることから考えると、説明としては、プルアップされたことでVbeが上がりベース電流が流れ始め、ベース電流による100kΩ抵抗での電圧降下分と、増えたVbeとを足して10.6Vになる点で安定し、バイアス電圧が与えられる、となるのではないだろうか、と思う。0.6Vに対するVbeの増加分は無視できるので、このバイアス電圧の下では、結果的に0.1mAがベースに流れる。


静的な状態のバイアスについてはいいのだけど、さらにここに信号が入ってきたときに、どのような動作になるのか。この図のようにエミッタ抵抗がない場合は、ベースに現れる入力信号の電圧の大きさはとても小さいのだろう。エミッタ抵抗が入ってくる場合には、エミッタ抵抗の値とhFEの値とに応じてエミッタ電位もベース電位も大きく変動し、ベース電位として現れる入力信号は大きくなる。こういったことを、アプリケーションでの実際面を含めて、分かりやすく説明できるようになりたい。


バイポーラトランジスタに求められる性能の代表は、高い増幅率、高い耐圧性能、高い電流容量、低い寄生容量、などだろうか。
高い増幅率のためには、原理的に、エミッタからベースに拡散する少数キャリアを増やす、ベース内で補足される数を減らす、コレクタまで到達する数を増やす、といったことが必要になる。そのために、エミッタの不純物濃度を増やす、ベースの厚さを薄くしてコレクタまで行きやすくする、ベース内の不純物分布に勾配を持たせてコレクタまで拡散だけでなくドリフトでも行かせる、などの方法が採られているらしい。いろいろ考えるものだ。耐圧を高める目的のためにはコレクタ内の不純物濃度を下げる、などがあるらしいが、さまざまな対策は他の特性に悪影響を及ぼす場合が多く、いろいろ難しいらしい。電流容量を稼ごうとしてベースコレクタ間の面積を増やすと寄生容量が大きくなる、とか。


まだまだ分からないことだらけ。今度本屋さんで、いいトランジスタの教科書を探そう。