CMoy (17) A47のループ内抵抗を小さくする


CMoyベースA47式4チャネルアンプのCh4、つまり出力GNDにシングルTrのエミフォロバッファを入れると素晴らしく音がいいのだけど、大振幅の低音が入ってきたときに同時に鳴っているボーカルなどの音がプルプル震えてしまうのが問題。この症状は、

  • 電源を9Vの電池から12Vの定電圧電源に変える
  • 出力GNDのバッファをOPアンプのボルテージフォロワに変える

のいずれかの対策で発生しなくなる。


ボーカルが震える、というのは大振幅低音によって電源なりGNDレベルなりが震えてしまっているのだろう。ちゃんとオシロで見てみればいいのだけど、テスターを+/-電源レールに当ててみたら変動していないっぽい(いい加減だ)ようなので、出力GNDチャネルでいけないことが起きてGNDレベルが揺れているのではないか、と、考えてみた。



ボーカルが震える状態でのCh4、つまり出力GNDチャネルのアンプの様子。左のOPアンプの非反転入力に分圧でできた仮想GNDが入る。NPNエミフォロでの0.7Vの電位のシフトは、OPアンプの負帰還で抑えている。ループ内の出力部の47ΩはA47式の名残。このGNDチャネルアンプの役目は、LチャネルとRチャネルの信号がイヤホンに流れて発生する電流を処理(sourceしたりsinkしたり)しつつ、A点の電位を0Vに保つこと。


4チャネル化したときに、出力GNDバッファのOPアンプにNE5532を入れたら高域が妙にきれいに響いてしまい、5532の特徴が顕著に出過ぎてしまったことがあった。そのことから、出力GNDバッファは吟味しないと、と、ディスクリートバッファを入れてみようと試みた。考えてみれば、ヘッドンアンプの場合はGNDがLとRで共通だから、GNDチャネルに流れる電流はLやRの倍だし、LとRの位相が180度ずれていたら周波数特性も倍必要なわけで、あなどれないわけだ。


上の回路図では無信号時のバイアス電流は、4.5V/220Ω=20mA。よって、出力GNDからsourceする電流には制限がないけれど、sinkする電流の最大値は20mAで制限される。sinkが最大20mAというのは、同相信号の場合10mA/ch、16Ωのイヤホンにとっては、I^2*R=10mAx10mAx16Ω=1.6mWとなり、必ずしも高い出力までサポートできているわけではない。とりあえずは、電池の持ちも考えて20mAに設定。


ここで、出力GNDチャネルから60mAがsourceされる状況、つまりLとRで同相の信号の場合、片チャンネルあたり30mA、約15mWほどの比較的大きな出力がある状態を考えてみる。



OPアンプによる負帰還はA点の電位を0Vにしようと動作する。一方、出力GNDのsource電流60mAについて見てみると、非反転端子で行き止まっている負帰還経路からは取れないから、60mAはすべてOPアンプの出力端子からsourcingされ、ループ内にある47Ωの抵抗を通ることになり、結果、この抵抗において予想外(自社比)の約2.8Vの電圧降下が発生することになる。さらにベースエミッタ間の電位差もあるので、A点を0Vに保つためには、出力GNDアンプはC点、つまりOPアンプの出力端子に+3.5Vの電圧を発生させないといけないことになる。


試行錯誤中に、このTrのVccとVeeとを、0.1uFでエミッタ端子(つまりB点)にバイパスしたらひどく歪んだことがあったけど、OPアンプが一生懸命B点を2.8Vにしようとしているのに、パスコンがそれを0Vにしようとしてしまっていたのだから歪んで当り前だったんだ。で、分かったのは、上の計算で出てきたOPアンプ出力端子の+3.5Vという電位は、もう少しで電源レールにぶつかってしまうほどの高さであり、そこそこ高レベルの信号に対してはこの出力GNDアンプでは、電流を十分sinkできないどころかsourceすることもできてない可能性がある、ということ。


原因はもちろんループ内に無反省に放置したA47式の名残り47Ω。負荷となるイヤホンのインピーダンスが47Ωに対して十分高い数100Ωあったり、あるいは電源電圧に十分余裕があったりすれば47Ωでも問題ないのだろうけど、負荷は10Ω程度、さらに電源レールが+/-4.5V、というような場合には、47Ωで発生する電位差は無視できない。


さらに考えてみれば、ループ内の抵抗値によってアンプ内部で出力電圧を越える電位差が発生してしまう、という現象は、なにも出力GNDに限った話ではなく、A47式のL/Rチャネルにも通用する話だ。GNDチャネルの場合は、電流量がLとRを足した値になるからより影響がシビアなだけかもしれない。L/Rチャネルの様子も考えてみる。



A47式で、ループ外の出力抵抗が10Ω、イヤホンのインピーダンスが16Ωのときに、1Vp-pの信号、つまり最大振幅が+/-0.5Vの信号が存在する状態を考える。最大振幅時に流れる電流は30mAで8mWくらいか。そこそこかなりの音量だろう。


アンプの仕事はB点に1.6Vp-pの信号を発生させること。最大振幅時を考え、帰還ループ内の2つの47Ωに等しい電流、それぞれ15mAが流れるとすると、OPアンプの出力端子に必要な信号は3Vp-p。電源電圧が+/-4.5VあるこのCMoyアンプでは問題にはならないけれど、もっと低い電源レールではこれでも問題だろう。


出力GNDチャネルの内部に、本当に+3〜4Vの電位が発生しているのかをオシロで確認してみよう、と思っていたのだけど、オシロを繋ぐの面倒だったので、47Ωをもっと小さい値、10Ωにした基板を先に起こし直してしまった。測定はあとでやろう。



実体配線図のようなもの。前回の基板と同様、OPアンプソケットを4つ密集させて、抵抗類は基板裏面で空中配線するつもり。なのでこの図は基板裏面から見た図。右側の2つがLとRを受け持つIC1とIC2。前回は、LとRとでOPアンプICを分けていたけれど、今回は初段とボルテージフォロワとで分けている。こっちの方が遊べそう。
A47式では、2つのOPアンプ出力を合成する際に、両方の出力に47Ωを入れているのだけど、韓国のSijosae氏の仮想GNDについての検討などを参考にして、片方にだけ抵抗、10Ωを入れるように変えてみた。



主要な部品を付けて電源系の配線をしたところ。今回はちゃんとパスコン付き、0.1uFx2をソケットの中に埋めてみた。電解コンデンサはニッケミKMGの6.3V/1000uF。



上の状態での基板裏面。そこそこきれい(自社比)にできた。



基板裏面に部品を付けて、配線して、完了。左側。右側は先代の基板。ほとんど同じ内容の基板なのですこしだけ進歩している。



上等そうな増幅素子を入れてみた。右奥のLT1113がIC1、L/Rの初段。右手前のLT1364がIC2、L/Rのボルテージフォロワ。左奥のLT1364がIC3、3chと4chの初段。2SC960が4chのバッファ。ちょっと聴いてみると、シングルTrを使っても大振幅時の音の震えは感じられなくなっている。一応成功か。そのうちオシロで確認しよう。



出力GNDバッファ用の素子。電子ブロックのようで楽しい。


ACスペックがとても素晴らしいLT1364は、おとなしいおだやかな音に感じたり、きちっとした迫力のある音に感じたり、まだ性格を掴みきれていない。上の写真のように、L/Rの初段をLT1113、ボルテージフォロワをLT1364にすると引き締まって迫力があってすばらしい。同じく写真のように、LT1364を3chと4chの初段にしても素晴らしい。LT1364を4chのバッファ、他を全部OPA2227にしたら、穏やかで特異ないい音が出た。LT1364は、そのパワーで、OPA2227やLT1113などの特徴を増幅しているのかもしれない。4chのバッファを2SC960にすると、とにかく元気がいいのだけど少しやりすぎの感じもある。今は2SC984。C1400とA726のプッシュプルも悪くない。



現在の回路図。ディスクリート出力GNDバッファのところ、シングルTrの方のバイアス電流は約20mA。プッシュプルの方は、C1400とA726のベースエミッタ電圧がおおよそ0.75Vで、1S1588の順方向電圧降下がおおよそ0.6Vだったので、20Ω+20Ωに0.3Vかかっている計算になり、バイアス電流は7.5mA。これなら普通のOPアンプの消費電流と同じくらい。
DIP8ソケットに小細工をして、出力GNDバッファにLT1010あたりを入れてみるのも面白そう。ICバッファの出力段は多くの場合プッシュプルだけど、簡単等価回路から見たLT1010はシングルA級のエミフォロで、外からバイアス電流の加減も可能なのだ。シングルTrのバッファで、ゲルマニウムトランジスタを使ってみるのもいいな。PNPでも全然かまわないわけだし、電源電圧も低いし。


CMoyなれの果てアンプ、マルツMHPA-FET改造のような安定感に満ち満ちた音はでないけれど、引き締まった低音の量と高音のディテールの過激さではこっちの勝ち。