1960年代のアンプと1970年代のアンプ
ラックスマン製L-505V、1975年発売、95,000円。
カタログ上の最大出力値に意味があると思えないけど、一応書くと、AU-777Dは 30W x 2、L-505Vは 55W x 2。年二桁成長の高度経済成長期のなかでも1960年代末から70年代なかばというのは日本の物価上昇が最も激しかった時期で、5年経てば物価は倍になる(1.15^5≒2)。この頃は給料もしっかり5年で倍になっていたらしい。そういうわけで69年のAU-777Dと75年のL-505Vとは、ほぼ同じクラス、もしかしたらAU-777Dがちょっと上、かと思われる。
1967年に、オールシリコントランジスタ!、全増幅段にNFを採用!、という今となっては良く分からないうたい文句で発売されたのがAU-777。ゲルマニウムトランジスタよりも電源電圧を高く設定できるのでダイナミックレンジが広い、NFをかけることで歪率が低い、というようなことだったらしい。1969年に発売されたAU-777Dは777のリファイン版で、いろいろ素子が変更されている。ちょうどこの頃は、アンプのモデルチェンジのタイミングで準コンプリ出力段が純コンプリ出力段になったり、ACアンプがDCアンプになったり、というような技術革新の時期であったあのだけど、AU-777Dの場合はまっとうなマイナーチェンジ。純コンプリ出力段は、翌年に、型名を変えてAU-666として登場する。
サンスイのAU-777Dでは、筐体のカバーを開けると筐体の高さ方向中央にがっしりしたシャーシがあって、そこにトランスやコンデンサが植えられている。これはまさに真空管アンプのコンストラクションだ。電源基板、ラインアンプ基板はそのシャーシに水平に取り付けられていて、基板を外すことなく、天面側からは部品面、底面側からはパターン面にアクセスできるようになっている。1972年のAU-9500でも、この真空管アンプにならった筐体構造は引き継がれている。
構造だけではなく回路的にも1970年代以降のトランジスタアンプとは異なっていて、出力パワートランジスタはNPN型が4個。金田式完全対称型、ではなく、いわゆる準コンプリ、海外でquasi-complementaryと呼ばれる回路だ。シリコンのPNP型のトランジスタがまだ出揃っていなかったためだと思う。
このAU-777D、出力段だけではなくフォノEQやラインアンプも、トランジスタはほとんどNPN型ばっかりだ。
1975年のラックスマンは、既にトランジスタアンプの設計にだいぶ手馴れてきた頃のものだろう。ラックスマンの場合は筐体外殻は木製で、その中に写真で見られる金属製のインナーシャーシがはまっているが、いかにも真空管アンプ然としたシャーシではなく、汎用品っぽいヒートシンクが使われていたり、だいぶ合理化が進んできた模様。出力段の回路はジュンの字違いの純コンプリ、今に至るまでパワーアンプの出力段の標準的な構成であるpure-complementary。
基板上に青く見えるタンタルCのようなものは、ニッケミのタンタルC。縦に挿さってる基板はフォノEQ基板で、入力部にはメタルキャンのOPアンプ、JRC4558Tが使われている。
前に作った表、ここで蓋を開けた2つのアンプの使用トランジスタについて、更新してみた↓