DECWARE Zen Head ZH1 & OPA627


Schneiderという昔からの由緒あるドイツのレンズメーカーがある。最近の日本で触れられる製品は大判用のレンズと一部のデジタルカメラのレンズ用フロントリングくらいだけど、戦前から戦後しばらくにかけて35mm版など小型カメラ用のレンズメーカーとして、中堅の上、あるいは上の下として大活躍していた時期がある。なにしろZeissからLeicaからRolleiからDeutsche KodakからAgfaからJhageeから、ドイツではどいつもこいつもみんなSchneider付きのカメラをラインアップしていたし、Nikon出世作とも言えるマイクロフィルム用に製造されたMicro Nikkor 3.5/50mm(F用は3.5/55mm)はSchneiderのXenotarというレンズのコピーだったり、と大変なものだ。


Xenon、Xenar、というあたりがSchneiderの代表的なレンズなのだけど、多くのSchneiderレンズには共通して感じられる特徴がありひとつは色がちょっと寒色系のところ。もうひとつが写真がきれいに整理されているところ。整理というのは、きっと人間が記憶をたよりに緻密に風景画を描こうとしたらこのようになるのではないか、とでも言えるのか、つまり本当の実世界の風景には、人間のパターン認識的な記憶の網からは漏れてしまうノイズのようなものが実はいっぱいあって、Zeissのレンズなどがノイズも、そして人間が認識できるパターン的なものも、一様に容赦なくフラットに写しこんでしまうのに対して、Schneiderのレンズで撮った写真には、どういう仕組みなのか人間の認識能力に沿ったものだけがきれいに整理されて並んでいるように見える。


このような整理はもちろん常に悪いことではなく、小さくいい加減に焼いた写真でも、Schneiderのレンズや、似たような面を持つライカのレンズで撮った写真なら見るに耐えても、Zeissで撮ったものはなにがなんだかわからない(ちょっとおおげさ)、というようなことがあり得る。逆に、それなりのサイズにしっかり焼いたZeissで撮った写真には、Schneiderでは到達できない境地が展開されることが期待できる。


前振りが長くなったけど、オーディオ用としてバーブラウンから出ているOPA2132/2134というOPアンプは、本当にSchneiderのレンズのようなOPアンプだなー、と思う。音が整理され、強調すべきところは強く、控えめであるべきところは控えめに、音楽が聴きやすい。どうしてこういうことができるのか僕には全く想像さえできないのだけど、バーブラウンはOPA2604というOPアンプを同じ路線で違う味付けのオーディオ用として出しているので、きちんと技術的なアプローチが出来上がっているのだろう。すごいなー。スペックよりも聴感を優先してアンプを設計しているように見えるDECWAREのような会社が、AD8620やLT1364などのハイスペックなOPアンプの採用事例が氾濫する中、OPA2132を採用しているのも納得できる。


とは言うものの、SchneiderよりもZeissの方が好きな僕としては、OPA2132が再生する聴きやすい音楽を聴いていると「うーむ...」と感じることが多く、DECWAREに敬意を表してこのままエージングしていこう、という決意も早々に敗れてしまって...。



2個のOPA2132PAを4個のOPA627で交換してしまったZH1、REV6基板。
ベージュ色の大きな2つのDaleの金属皮膜抵抗は、基板のバグ対策のために交換した100Ω。4本の緑色のMuse FXはいずれも50V/330uF、2本が出力カップリング、2本が+と-の電源デカップリング。もともとは大きな4700uFと一緒の水色の470uFの電解コンデンサだった。薄い群青色のはクロスフィード回路のフィルターを構成する抵抗で、これはもともとの部品。


OPA627にしてから音楽を聴いてみると、いままで無難にまとまってスゥーッと聴けていたフレーズで、妙に引っかかって「あれ」と感じる、というようなことが起きる。そうそう、これが足りなかったんだよな、OPA2132は。



ついに心臓部が交換されてしまったDECWARE Zen Head ZH1。
元気に鳴って楽しく聴ける、という基本的な性格までは変わっていない。と思う。ドック変換コネクタはAudiotrack製でケーブルはφ0.9mmの金メッキ銅単線の自作。この金メッキ線はMHPA-FET改で電池と本体を繋いだ線と同じもの。被覆が熱に強いので工作しやすいし、今までのところ音質的にも外したことがなくてお気に入り。