CMoy (8) 4ch化の考察


3ch化したCMoyアンプの回路図を、3ch構成のコンセプトが分かりやすいように書き直してみた。


出力GNDを、L-chとR-chに準じる増幅チャンネルと位置づけて、負帰還をかけたアンプをGNDにも入れている。


4ch構成のアンプというのをいろいろググってみると、Dr.Xinという人のアンプがオリジナルで、iBassoという会社のP3 Heronというようなアンプにも採用されているらしい。これは3ch構成アンプを直線的に発展させたものらしく、3ch目のアンプが出力GNDに入るのと同様、4ch目のアンプがL/R-chのOPアンプ動作用のGNDに入るらしい。回路図に書くとこんな感じ↓



出力GNDに入る3ch目の負帰還アンプは、負荷となるイヤホンを流れる電流によってGNDがふらつくことを抑えている。一方4ch目の負帰還アンプは、ボリュームや反転端子からGNDに流れる電流によってGNDがふらつくことを抑えているのだと思う。このようなGNDに流れる電流がどの程度のものなのか、GNDレベルに対してどれほどの影響をおよぼすのか、ちょっと計算してみることにした。



これが、本来のCMoy、2ch構成のアンプの回路図。出力抵抗とイヤホンとを足した負荷を30Ωとしている。ボリュームに入る入力信号はiPodのライン出力では1Vくらい。DENON AH-C700などの普通のイヤホンで普通の音量で効いている状態では反転端子に現れる信号強度は数10分の1V。そこでここでは反転端子からGNDに流れる電流は無視して考えることにする。


まず、2ch CMoyアンプにおいて、イヤホンに出力されて出力GNDに戻ってくる電流を計算してみる。



カップリングコンデンサを無視して単純化するとこう。AH-C700で普通の大きさでサイン波を鳴らして際の出力端子での波形がおおよそ0.2Vp-pだったので、Output-Lには0.2Vp-pの信号がかかるものとする。その信号のピーク時、正側に0.1Vがかかっている状態について静的に記述するとこう↓

  • j = i + k ...(1)
  • i * 4.7k - k * 30 = 4.5(V) - 0.1(V) ... (2)
  • k * 30 + j * 4.7k = 4.5(V) + 0.1(V) ... (3)

パラメータが3つで式が3本なので解ける。

式(3)に式(1)を代入する。

  • k * 30 + i * 4700 + k * 4700 = 4.6 ... (4)

式(4)から式(2)をひく。

  • k * 4760 = 0.2 ... (5)
  • k = 0.000042 = 0.042(mA) ... (6)

ここで、もしGND電位が完全に安定していたとすると、負荷30Ωに流れる電流kは、単純にk = 0.1V/30(Ω)で計算できるのでk = 0.003333となり、3.333mAで、式(6)で得られた値とはずいぶん異なってくるはずであることが分かる。

さて、式(2)あるいは式(3)に式(6)を代入すると、iあるいはjが求まり、iあるいはj、および4.7kΩの抵抗によって生成されるGND電位がどのように影響を受けてしまっているかがわかる。

式(2)に式(6)を代入する。

  • i * 4700 - 0.000042 * 30 = 4.4 ... (7)
  • i * 4700 = 4.4 + 0.00126 = 4.40126 ... (8)
  • i = 0.000936 = 0.936(mA) ... (9)

正側の電源電位に対する仮想GND電位は、無信号状態では-4.5Vであるはずだが、+0.1Vの出力信号が存在する状態での正側電源から仮想GNDまでの電圧降下は式(9)より、

  • 0.000936 * 4700 = @4.401(V) ... (10)

となり、GND電位が正側に0.1V近く振られていることが分かる。

仮想GNDを安定させる方法としては分圧に使う抵抗の値を小さくする、というものがある。ここで仮に、仮想GND生成用の分圧抵抗の値をCMoy指定の4.7kΩの10分の1、470Ωとして計算すると、

  • k * 30 + i * 470 + k * 4700 = 4.6 ... (4')
  • k * 530 = 0.2 ... (5')
  • k = 0.000377 = 0.377(mA) ... (6')

などとなり、iは、

  • i * 470 = 4.4 + 0.0113 = 4.4113 ... (8')
  • i = 0.00939 = 9.39(mA) ... (9')

となり、GND電位は、

  • 0.00939 * 470 = 4.411(V) ... (10')

で相変わらず0.1V近く振られる。4.7kΩ→470Ωによる改善効果はかなり限定的であることが分かる。

過渡的な現象を、静的に扱ってしまっているので正確ではないと思うけど、出力信号の振幅である0.1Vの90%以上の振幅でGNDが振られてしまう、というのはいかにもまずそうだ。


次に、ボリュームに印加される入力信号によってボリュームに流れ、GNDに流れる電流の影響をみてみる。



FET入力のOPアンプの非反転入力端子の入力インピーダンスを無限大として、単純化するとこう。ここで、Input-Lに2Vp-pの信号がかかっている(iPodのドックアウト出力はたぶんこのくらい)として、そのピークで正側に1Vがかかっている状態を記述するとこう↓

  • j = i + k ...(11)
  • i * 4.7k - k * 10k = 4.5(V) - 1.0(V) ... (12)
  • k * 10k + j * 4.7k = 4.5(V) + 1.0(V) ... (13)

式(13)に式(11)を代入する。

  • k * 10000 + i * 4700 + k * 4700 = 5.5 ... (14)

式(14)から式(12)をひく。

  • k * 24700 = 2.0 ... (15)
  • k = 0.0000810 = 0.081(mA) ... (16)

式(12)に式(16)を代入する。

  • i * 4700 - 0.000081 * 10000 = 3.5 ... (17)
  • i * 4700 = 3.5 + 0.81 = 4.31 ... (18)
  • i = 0.000917 = 0.917(mA) ... (19)

したがってGND電位は、

  • 0.000917 * 4700 = @4.31(V) ... (20)

となり、GND電位が正側に0.2Vも振られてしまっている。


30Ω程度のインピーダンスのイヤホンで普通の音量で聞いている状態では、イヤホンを流れる電流によるGNDレベルの変動よりも、ボリュームを流れる電流の方がGNDレベルに対する影響が大きい、つまり、3ch目の出力GND用アンプよりも、4ch目の回路内GND用アンプの方が効果を見込めるのではないか、というような感じだろうか。実際には電源デカップリングコンデンサが入っているので上の計算よりは影響は少ないはずだけど、抵抗分圧だけで作られた仮想GNDというものが、分圧する抵抗値にかかわらずかなり脆弱なものである、ということは分かった。気がする。


現在の既に3ch化したCMoyアンプ基板にさらにもう1個OPアンプを載せられるか、はかなり微妙なので、4ch CMoyの評価用にもう1枚アンプ基板を作ってみるつもり。