Ultimate Ears


Ultimate Earsは90年代中頃に、ロックコンサートの舞台音響の専門家によって、ステージ上のミュージシャン用のIn Ear Monitorイヤホン(IEM)を製造販売する会社として設立された。らしい。ステージ上での遮音性確保のために、耳型を取って個人個人専用に作成するカスタムタイプと呼ばれるIEMが本来のビジネスであり、後に、一般ピープルの音楽鑑賞用をターゲットにしたユニバーサルタイプのIEMにも進出している。カスタムタイプにはUE 5 proやUE 11 proというような型名が付けられており、ユニバーサルタイプにはsuper.fi 3 studioとかtriple.fi 10 proというような型名が付いている。


もともと、ステージ上で演奏しながら使うものであったため、容易に耳から外れることのないようにケーブルを耳たぶにかける装着方法が、カスタムタイプと、主要なユニバーサルタイプにおいて採用されている。SHUREやWestoneとは若干異なり、耳にひっかかるケーブルのテンションでもってIEM本体を耳の穴に密着させているため、特にユニバーサルタイプでは耳から鉛直方向に本体が突き出すという特殊な装着状態になる。電車の中とかではちょっと目立ってしまうかも。Ultimate Earsのホームページには、装着の仕方を説明するビデオもある。


ただでさえ目立ってしまうのに、ユニバーサルの最上位機種であるtriple.fi 10 proはとてもきれいな青色をしているためさすがに手を出すのがためらわれ、UEの日本代理店モデルであるIE-40はこんどは銀色のピカピカでやっぱり目立つし、そもそも高すぎるし、というわけで、ちょうどヨドバシのポイントでなんとかなったsuper.fi 3 studioを購入。ケーブル耳掛け式のユニバーサルタイプ3機種の中の、BAユニットが1基のモデル。



Super.fi 3 Studio
この写真の左側のユニットが左耳用、右のユニットが右耳用。UEのロゴが正面にくるように装着する。


ここのイヤホンは、海外のネットコミュニティではそれなりに、国内では異常に、評判がいい。特に音場感に優れる、というのがもっぱらの評価。


初代iPod nanoに接続して聴いてみた。一聴、元気がよく、開放的で、最高域の伸びや低域の量感はやや足りないものの音場感に優れた音質。3日ほど連続して聴いているうちになんだか違和感を感じ始め、もしかしたらどんな音楽を聴いていても元気よく開放的で音場感に優れた音になってしまっているのではないか、という疑惑が生じてきた。


むーん、と仔細に聴いていたところ、中高域にエコーのような反響音が乗っているようにも聴こえてきた。普通のスピーカーであっても、適度に音を反響させたり、あるいは壁の反射を積極的に使うことでより臨場感にあふれる音楽再生を行っているわけで、反響音を乗せていること自体が悪いわけではないけれど、反響音の種類や量によってはある種の音楽はとてもいいけどある種の音楽はいまひとつ、というようなことが発生してしまうのだろう。super.fi 3 studioは、その色付けのために、元気がいいわけではない音楽も元気に鳴ってしまったり、オンマイクで収録されているようなボーカルの場合にも、本来は存在しないはずの反響音が乗るために声のダイレクトさが薄れてしまったり、というようなことが発生してしまっているように聴こえた。


Ultimate Ears以外のイヤホンメーカーだって反響を積極的につかっているところはあるわけで、こないだ書いたようにKlipschやSHUREはそれをカタログでうたっていたりもする。Klipschは大成功かな。一方SHUREのSE530は、十分高いレベルでの再生が行われてはいるけれど、敢えて言えば低域が混濁気味になったり、ボーカル帯域の若干の金属的な響きが気になってしまうことがある。が、これはいろいろ比較して気になる程度の話であって、単独で聴いていればとても素晴らしい。


super.fi 3 studioは、単独で聴いていても、ちょっとおかしい。おかしい、と言ってしまうと全然悪い音のようだけど、そうではなくて、抑揚や音程をしっかり再現する程度や、大きな混濁の少なさには、十分その価格に見合うものはあるな、と認めた上で、どこか他社の高級イヤホンとは違うところがある。
むー、僕の個体がおかしいのか、と思っていろいろレビュー記事やBBSをぐぐってみていたら、海外のHead-fiあたりでも、Ultimate Earsの音場感は作られたもので偽物、というような感想が散見されたので安心、というか、実はがっかりした。super.fi 3 studioが素晴らしかったらいつかはtriple.fi 10 proを、などと思っていたものだから。比較的大きな筐体は、ケーブルのテンションで耳に密着させよう、という目的の他に、反響音をコントロールするための音響的な意味もあるのかもしれないな。


スピーカーの世界では、数100万円するようなものでも、積極的な色付けで特定の音楽ジャンルに特化したような製品は普通だから、高いイヤホンなんだから色付けはいけない、などというようには思わないけれど、proとかstudioとかいうネーミングはいかがなものだろう。あれだけ柔らかい低音を持つHD650にReferenceというネーミングはないだろう、と感じていたのだけど同じような感じだ。


さすがにこのユニバーサルモデルの音の性格で演奏家が楽器の音をモニターする、ってちょっと考えにくいので、形からして全然違うカスタムタイプのUEのイヤホンは、きっと全然違う音なのだろうな、と想像している。是非聴いてみたいところだけれど、耳鼻科に行かなくてはならなかったり、さらには出来上がって気にいらなかったからと言って自分の耳型のものをオークションで売れるわけでもないし、で、なかなか難しい。もちろん値段は高い。UE 11 Proで1,150USD、とか。むー。


今回のsuper.fi 3 studioでヨドバシのポイントは底を突いてしまったけれど、triple.fi 10 proを買う、という出費を抑えることができたのだから、ま、いいか。
ああ、でも、音場感で評価の高いsuper.fi 3 studio、super.fi 5 pro、triple.fi 10 pro、とは違う、ケーブルを耳にかけない設計のsuper.fi 4や最新のsuper.fi 5あたりは試してみてもいいかもな。あれなら気軽に装着できるし、もしかしたらその音は、ずっとstudioだったりproだったりするかもしれない。