「ポ」の字



1801年11月16日にベートーベンが手紙に恋するジュリエッタのことを書いた、こないだの11月16日にリリースしたFWのコードネームをジュリエッタにした、という縁で、最近ピアノソナタ14番、月光を聴いている。ベートーベンがジュリエッタに捧げた曲、ということになっている。


好きなピアニストは、グルダ、ギレリス、リヒテルルービンシュタインだってやぶさかではないし、ハイドシェックだって聴く。苦手なのは「ア」の字の人。聴いていると足がもつれてころびそうな感じになってむずむずしてくる。この人は、指揮をしている曲を聴いてもころびそう感が炸裂するので、僕の趣味理解の範囲外の、なにか確立された芸を持っているのだと思う。


苦手というわけではないけれど、決して積極的に聴こうと思わずに来ているのがショパンの演奏で知られているポリーニ。ずいぶん以前に聴いて、あ、これあまり好みじゃない、と思い込んだのがきっかけだと思う。最近調子のいい強化版サンスイAU-9500とソニーCDP-101でじっくり月光を聴いてみよう、とCD屋を巡ってみると、そこはあきる野のCD屋、特価版のクラシック以外はセミクラと日本人演奏家のものばかりで、でもそんな中でもポリーニのものはあったので、いくぶん怖いもの聴きたさで買ってみた。


うーん。第一印象、正しいかも。僕とは相性が悪いらしい。硬質なタッチも、天才肌のピアニストによる自在なタッチが聴く側の鼓動に共鳴する、というような感じではなく、頭で考えながらの一生懸命なタッチの合間合間に頭の速度が追いつかない破綻、というか質感の不似合いな、魂が抜けたトーンが混じってしまう、というように聴こえる。CDP-101やWadia16で再生していたはずが、たまに瞬間的に、CDP-XA5ESに切り替わってしまう、という感じか。


全体の構成も、かなりBGMっぽいベートーベンに聴こえてしまった。いや、ポリーニってばBGMっぽい?、と感じたのはポリーニの直後にルービンシュタインの演奏を聴いていた最中だ。だらーっとななめに聴いていてもルービンシュタインのベートーベンは、縦割りのリズムがときおりこちらの背筋をしゃきっとさせる。このCDでの比較では、月光はグルダよりもルービンシュタインかな。写真で右に写っているのはやはり最近買ったギレリスのもので本命候補。このソ連出身のピアニストが初めて鉄のカーテンの外で演奏をしたとき、西側世界のクラシック音楽界が大震撼した、らしい。


ギレリスの月光、魔改造版CDP-777ESAのこけらおとしに聴こうかな。